横浜お灸研究室 関元堂

横浜市のお灸専門 関元堂

お灸における4つのルール

お灸を治療として行うときには、最初に病気の把握がある。

 

お灸では症状に対して、このツボを使うという考え方があるが、そうではなくて、症候分析と検査法を合わせて、問題を把握してから治療を行うことが大切になる。

 

これは、中医学の弁証論治に近い。

 

もちろん、症状に対してこのツボを使うという考え方も、基本としては大切ではあるが、それは目安であり、実際に使用するときは、臨床に合わせて使っていくことが大切になる。

 

お灸治療におけるポイントはいくつかあるが、ウィルスや細菌など影響しているもの(例えば、風邪や急性の腹痛など)は特効穴治療も有効と考えられる。

 

体内に熱が強く発生しているものに関しては、打撲や捻挫などの外傷を除くと、ウィルスや細菌など感染があるが、熱を冷やすことも大切になる。この場合は、お灸により汗をかかせて冷やすなどの方法もある(知熱灸の一種など)

 

疲労が原因の場合は、脾胃を補うなども大切になる。

 

慢性症状の場合は、虚証を中心に考えて、腎虚の影響を特にお灸では考えることがある。

 

お灸では、陰陽五行などの理論は過度に使わず、実際に何が効果があるのか考えて治療する例も多いと思う。しかし、沢田先生は五行を臨床に自由自在に使われていたようだ。そういうわけなので、僕は陰陽や五行は空理空論とは言えないと考えている。

 

お灸は、日本で発展したという意見もあるようだが、中国や韓国や台湾でも現在各種灸法があるし、中国では昔から様々な灸法が行われたようだ。日本では民間療法的にお灸を行っていたこともあり(これは他の国もそうかもしれないが)、複雑な理論より合理的に治療することが多かったのかもしれない。

 

お灸治療は、思弁的観念主義ではなく、経験的実証主義な点が基本になっていたのかもしれない。個人的には治療のためには、いろいろな考え方を現実的に使えばいいと思う。

 

そのためには、西洋医学的な観点も大切になる。同時に瘀血、水毒、気滞などの病態を把握することが大切になる。

 

患者は、最初は病気の原因を知ることより、今一番辛い症状を取り除いてほしいということが望むことがほとんどである。このようなときは、患者の精神、心、脳は疲弊しているため、詳しい理論的な説明や長時間の問診はあまり行わない方がいい時もある。

 

今一番辛い症状をできる限り、簡潔な方法で取り除き、それがよくなったら、原因を治療をすることも現実的には大切になる。しかし、原因から一気に治療できてしまうこともあるので、そのあたりの技術力の差や患者の状態の把握は大切になると思う。

 

 

2番目に大事なことは病態の把握である。

 

痛みの病態の把握では、個人的には機能低下(気滞、気虚とも考えている)、炎症、血虚、瘀血の存在を重視している。治法の基本は血液循環の促進と、消炎となることが多い。

 

瘀血に関しては、皮膚の色も重要になる。具体的には紫斑、細絡の存在が重要になる。

 

瘀血の痛みは、固定的でキリキリするような痛みで、夜間に憎悪するといわれている。瘀血は単独で存在していることは少なく、他の原因があることもある。出産後の各種問題は瘀血が関係が多く、さらに冷えがある場合は、水毒が絡んでいることがある。

 

水毒系の痛みは、広範囲に腫れを伴う重だるい痛みで、浮腫を伴うこともある。水毒に関しては、冷たいものや甘い物の取り過ぎが原因とも言われて、生活習慣を変えないと改善が難しい場合がある。まあ、僕も甘い物が好きなのであまり偉そうなことはいえない。

 

 

3番目に大切なことは病態に対するお灸のツボの選定である。

 

「この症状には、このツボが効く」という方法では応用が利かなくなることが多い。

 

例えば、足三里と言うツボは、胃熱の反応が出るツボである。胃の疾患に効果的であるが、神経の支配から考えると、坐骨神経痛や腓骨神経痛にも効果的という意見もある。鼻の症状に効くこともある。目の症状に効果的とも言われている。

 

古来から脚気八処の灸のひとつとして用いられているし、長寿の灸といわれている。

 

脾胃の気虚や脾胃の陽虚、脾虚湿生などにも効果的と言われている。

 

胃酸過多の場合は、足三里ではなく、陽陵泉を使った方がいいという意見もある。

 

脾胃だけではなく、腎にも効果的という意見もある。

 

こういった足三里の穴性をまず知り、そのツボの特性と臓腑経絡における構成関係を知ることが大切になる。そして、他のツボと組み合わせたときの相性やツボの特性の変化なども考える必要がある。

 

経験的なことも大切にしながら、なぜそうなるのかということも考えていく必要がある。

 

ツボの選定は、穴性理論と触診反応を考えながら、慎重に行う必要があり、簡単ではない。

 

 

最後の4つ目に大切なことは、お灸の熱の加減である。

 

お灸の熱の加減は人それぞれであって、効果がある熱量が重要である。

 

このお灸の熱の加減には、もぐさの質も関係してくる。もぐさの質で熱の質がまったく異なるものになる。よって、単純にお灸と言っても、簡単な話ではない。

 

ドラックストアなどで市販されている台座灸は、シールで貼り付けるので熱加減が難しい。

 

下手なお灸をすると、そのときは爽快感があっても、結果的に自律神経がおかしくなってしまうことがある。

 

お灸治療では、同じツボでもお灸をする人によって効果が違う。ほんのわずかな差が大きな違いになることもある。触診にしても、施灸にしても、感覚を重視するので感覚能力に個人差がある以上、治療者による治療差が出るのは当然の話である。感覚や能力は才能のこともあるが、それなりに訓練することもできるし、経験も大切になる。あとはセンスだろうか。